1. はじめに
この記事を作成する背景は、Microsoft Foundry の Fine Tuning では、学習手法だけでなく、対応モデル、トレーニング方式、デプロイ方式、料金条件を組み合わせて判断する必要があり、導入前の比較が難しいことです。
本記事の目的は、Fine Tuning の使いどころと、Foundry で選べる方式、モデル、デプロイ、コスト、制約を整理することです。Part 1 では「採用するか、何を選ぶか」に焦点を当て、データ準備と実行方法は Part 2 に分けます。
2. Fine Tuning とは何か
Fine Tuning(ファインチューニング)は、事前学習済みモデルへ特定タスクやドメインのデータを追加学習させ、モデルの振る舞いを調整する手法です。Microsoft Foundry の Azure OpenAI モデルでは、計算量を抑えるため LoRA(Low-Rank Adaptation)が使われます。[^fine-tuning-guide]
2.1 期待できる効果
- 指示追従、出力形式、文体、専門タスクへの適合
- 長い few-shot 例を毎回プロンプトへ入れる必要の削減
- 入力トークンの削減によるレイテンシと推論コストの改善
- 大型モデルの出力を学習データに使う Distillation(蒸留)による小型モデルへの振る舞いの移転
Fine Tuning は、学習データに含まれない最新知識を自動で獲得する仕組みではありません。知識の追加や更新が目的なら、まず RAG を検討します。
2.2 プロンプト、RAG との使い分け
| 手法 | 主に解決する課題 | 選ぶ目安 |
|---|---|---|
| プロンプトエンジニアリング | 指示、出力形式、例示の調整 | 最初に試す。変更が速く、低コストで検証したい |
| RAG | 最新情報、社内文書、根拠の参照 | モデル外の知識を検索して回答へ反映したい |
| Fine Tuning | 振る舞い、文体、タスク特化 | プロンプトが長大化した、品質が頭打ちになった |
| Fine Tuning + RAG | 振る舞いと外部知識の両立 | 検索結果を決まった形式や方針で使わせたい |
判断順序は、プロンプトで基準品質を作る → RAG が必要か確認する → 評価データで改善余地を測る → Fine Tuning を試す、が基本です。Microsoft Learn も、Fine Tuning 前にプロンプトエンジニアリングや RAG を評価する流れを示しています。[^fine-tuning-considerations]
3. Microsoft Foundry で選べる Fine Tuning
Microsoft Foundry は、サーバーレスで学習する方式と、Managed Compute を使う方式を提供しています。利用できる手法はモデルによって異なります。[^fine-tuning-overview]
3.1 SFT、DPO、RFT
| 手法 | 学習データ | 適した用途 | 選定の考え方 |
|---|---|---|---|
| Supervised Fine-Tuning(SFT) | 入力と模範回答 | ドメイン特化、構造化出力、文体、指示追従 | 基本の選択肢。まずここから始める |
| Direct Preference Optimization(DPO) | 同じ入力に対する望ましい/望ましくない応答 | ブランドボイス、安全性、応答方針 | 良否の比較データを用意できる場合に使う |
| Reinforcement Fine-Tuning(RFT) | 問題、正解、Grader が使う採点情報 | 数学、科学、分類など採点可能な推論 | 正解を機械的またはモデルで評価できる場合に使う |
SFT は「何を出すべきか」を模範回答で教えます。DPO は応答間の好みを学習し、RFT は Grader(採点器)の報酬を使って試行結果を改善します。RFT では、データ件数だけでなく Grader が意図した品質を測れているかが成否を左右します。
3.2 モダリティと Distillation
- Text → Text: テキスト入力からテキスト出力を学習
- Vision + Text → Text: 画像と指示から、分類、属性、説明などを生成
- Distillation: 大型モデルの良質な出力を教師データにして、小型モデルを SFT
Vision Fine-Tuning の対応はモデルごとに異なります。Distillation も「小型モデルが大型モデルと同等になる」ことを保証するものではないため、対象タスクの評価セットで効果を確認します。
3.3 手法のスタッキング
最初に SFT でタスクの基本動作を学習し、その結果へ DPO を重ねて好ましい応答へ寄せるなど、複数手法を段階的に使えます。[^fine-tuning-considerations] 一度に複数の変更を加えると改善要因を特定しにくいため、各段階でベースモデルとの比較結果を残します。
4. 対応モデルと選び方
確認基準日: 2026-05-11。次の表は当時の公式ページを基にした要約で、唯一の現行一覧ではありません。モデルの追加、退役、GA/Preview の変更が頻繁に起こるため、公式の対応モデル一覧を正としてください。[^fine-tuning-models]
| モデル/ファミリー | 主な手法 | 学習方式 | Vision | 確認基準日時点の扱い |
|---|---|---|---|---|
| GPT-4.1/mini/nano | SFT、DPO | Standard、Global | GPT-4.1 のみ対応 | GA |
| GPT-4o/GPT-4o-mini | SFT、DPO(一部モデル) | Standard、Global | GPT-4o のみ対応 | GA |
| o4-mini | RFT | Standard、Global | 非対応 | GA |
| GPT-5 | RFT | Standard、Global | 非対応 | Private Preview |
| Llama、Mistral、Phi、Qwen、gpt-oss、NTT Tsuzumi など | 主に SFT | Managed Compute | モデル依存 | Preview を含む |
OpenAI 系はサーバーレスで始めやすく、オープンモデル系は Managed Compute が中心です。確認基準日時点では、以前 Fine Tuning した OpenAI モデルをベースに継続 Fine Tuning する選択肢もありました。[^fine-tuning-guide]
モデル選定では、次の順に条件を絞ります。
- 必要な手法が SFT、DPO、RFT のどれか
- テキストだけか、画像入力が必要か
- Standard/Global を使えるか、Managed Compute が必要か
- データレジデンシー、SLA、スループット要件を満たすか
- ベースモデルと Fine Tuning 後モデルの品質差がコストに見合うか
5. デプロイ方式とリージョン
Fine Tuning 済みモデルの主なデプロイ方式は次の 4 つです。利用可否はモデルとリージョンで異なります。[^fine-tuning-deploy]
| デプロイ方式 | 特徴 | データレジデンシー | SLA | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| Standard(Regional) | 指定リージョンで推論 | リージョン内 | あり | データ所在地要件が厳しい本番 |
| Global Standard | グローバル容量を利用 | リージョン固定ではない | あり | 容量とコストを重視する本番 |
| Developer Tier(Preview) | アイドル容量を利用 | 保証なし | なし | 評価、PoC |
| Provisioned Throughput(Preview) | 予約スループット | リージョン依存 | あり | 安定した低レイテンシが必要な本番 |
Global Training の対応リージョンはモデルやモダリティで異なるため、対応モデル一覧とデプロイ手順で確認します。
確認基準日時点では、Fine Tuning 済みモデルのデプロイが 15 日間連続で未使用の場合、デプロイが削除される挙動が案内されていました。モデル自体が削除されるわけではありませんが、再利用時の再デプロイを運用手順へ含めます。[^fine-tuning-deploy]
6. 料金体系
Fine Tuning の費用は、次の 3 要素に分けて見積もります。
- トレーニング料金: 学習トークン数または学習時間
- ホスティング料金: デプロイを保持する時間
- 推論料金: 入力・出力トークン
確認基準日: 2026-05-11。次の価格は当時の目安(USD)であり、2026-08-16 の記事分割時には再確認していません。見積もりでは Azure の料金ページを正としてください。[^azure-openai-pricing]
| モデル | トレーニング | ホスティング | 推論(Global、入力/出力 1M tokens) |
|---|---|---|---|
| GPT-4.1 | $25/1M tokens | $1.70/hour | $2.00/$8.00 |
| GPT-4.1-mini | $5/1M tokens | $1.70/hour | $0.40/$1.60 |
| GPT-4.1-nano | $1.50/1M tokens | $1.70/hour | $0.10/$0.40 |
| o4-mini(RFT) | $100/hour | $1.70/hour | $1.10/$4.40、Grader 別料金 |
| gpt-oss-20b | $3.60/1M tokens | $0.30/hour | $0.07/$0.30 |
確認基準日時点では、Developer Tier にホスティング料金がなく、一部のトレーニング料金にも割引がありました。また、RFT は 1 ジョブの累計が $5,000 に達すると一時停止する案内がありました。どちらも Preview や上限変更の影響を受けるため、ジョブ作成前に料金と制限を確認してください。
見積もりは、Fine Tuning 前後のトークン数、推論単価、ホスティングを含む総額で比較します。
7. 代表的なユースケース
| 分野 | 目的 | 向く手法 |
|---|---|---|
| 金融 | 信用審査やリスク評価を、定義済みの採点基準へ合わせる | RFT、SFT |
| 医療 | 臨床要約、専門用語を含む Q&A、採点可能な問題への回答 | SFT、RFT |
| カスタマーサポート | FAQ 応答、出力形式、ブランドボイスの統一 | SFT、DPO |
| 製造・小売 | 商品画像から属性や構造化データを生成 | Vision Fine-Tuning |
| 法務 | 条項分類、契約書要約、定型フォーマットへの変換 | SFT、RFT |
最初のユースケースには、正解や合格条件を説明でき、現状のベースラインを測れるタスクを選びます。「何となく自然になった」ではなく、形式準拠率、正答率、専門家評価、トークン数、レイテンシなどの評価指標を先に決めることが重要です。
8. Foundry の強みと制約
8.1 Foundry で統合できる範囲
| 観点 | 提供内容 |
|---|---|
| 実行方法 | Foundry Portal、SDK、REST API |
| 評価 | 学習メトリクス、チェックポイント、RFT の評価ジョブ |
| 反復改善 | Fine Tuning 済み OpenAI モデルを使う継続 Fine Tuning |
| データ準備 | 合成データ生成による初期データセット作成 |
| セキュリティ | Microsoft Entra ID、RBAC、コンテンツフィルター、Managed VNet |
| ガバナンス | Azure Policy、Private Endpoint、監査ログ |
対応範囲は、サーバーレスと Managed Compute、モデル、Preview 状態によって異なります。特にネットワーク、鍵管理、データ所在地の要件は、モデル機能と切り離して確認します。[^fine-tuning-serverless]
8.2 導入前に確認する制約
- 学習ファイルは JSONL 形式で、サイズとエンコーディングに制約がある
- Azure Blob からのインポートにはネットワーク条件がある
- 継続 Fine Tuning と Auto Deploy は対応モデルが限られる
- Serverless API の Fine Tuning では、確認基準日時点でカスタマー管理キーに制約があった
- RFT は Grader の品質、報酬ハッキング、追加の採点コストを管理する必要がある
- Preview のデプロイ方式は SLA やデータレジデンシーが本番要件を満たさない場合がある
8.3 コストを抑える進め方
- 小型モデルと少量の高品質データでベースラインを取る
- 評価では Developer Tier を候補にし、本番要件がある段階で方式を見直す
- 低品質なデータを増やすより、失敗例を分類して必要な例を追加する
- チェックポイントを比較し、過学習前の状態も評価する
- Fine Tuning 後の短いプロンプトを前提に、推論費を再計算する
9. まとめ
Microsoft Foundry の Fine Tuning は、プロンプトや RAG では改善しにくい振る舞い、文体、構造化出力、採点可能な推論を最適化する手段です。最初は SFT を基準にし、比較データがある場合は DPO、明確な Grader を設計できる場合は RFT を検討します。
導入判断では、モデル名だけでなく、対応手法、モダリティ、デプロイ方式、データ所在地、SLA、トレーニング・ホスティング・推論の総コストを一つの評価表で比較します。実際のデータ形式、パラメータ、評価、Portal 操作は Part 2 で解説します。
10. 参考情報
- Microsoft Foundry の Fine Tuning 完全ガイド — データ設計・実行(Part 2/全 2 回) — JSONL、ジョブ設定、評価、実行手順
- Fine-tuning considerations — Fine Tuning の選定とデータ設計
- Models sold directly by Azure — 対応モデルとリージョン
- Deploy a fine-tuned model — デプロイ方式と運用
- Azure OpenAI Service pricing — 最新の料金
- Fine-tuning overview — サーバーレスと Managed Compute の概要
- Fine-tune models deployed via serverless API — サーバーレス Fine Tuning の要件
- Microsoft Foundry ファインチューニング料金完全ガイド — コスト構造・見積もり・最適化戦略 — 詳細なコスト計算
[^fine-tuning-guide]: Customize a model with fine-tuning — Microsoft Learn(確認日: 2026-05-11)
[^fine-tuning-considerations]: Fine-tuning considerations — Microsoft Learn(確認日: 2026-05-11)
[^fine-tuning-overview]: Fine-tuning overview — Microsoft Learn(確認日: 2026-05-11)
[^fine-tuning-models]: Models sold directly by Azure — Microsoft Learn(確認日: 2026-05-11)
[^fine-tuning-deploy]: Deploy a fine-tuned model — Microsoft Learn(確認日: 2026-05-11)
[^azure-openai-pricing]: Azure OpenAI Service pricing — Microsoft Azure(確認日: 2026-05-11)
[^fine-tuning-serverless]: Fine-tune models deployed via serverless API — Microsoft Learn(確認日: 2026-05-11)






