はじめに

2026 年 6 月 10 〜 11 日、港区のフェアモント東京にて Code with Claude Tokyo 2026 が開催されました。Anthropic が主催するこのイベントは、サンフランシスコ(5/6〜7)、ロンドン(5/19〜21)に続く第 3 弾であり、日本初上陸となります。

AI ツールを日常的に使うエンジニアとして「Anthropic が日本で何を伝えようとしているのか」をどうしても現地で感じたく、申し込みました。結果として、2 日間で発表された内容の密度・熱量・ホスピタリティのすべてが期待を上回るものでした。

TL;DR

  • Claude の新モデル Fable 5(SWE-bench Pro 80.0%)と Opus 4.8(SWE-bench Verified 88.6%)が発表された
  • Claude Code に Auto Mode・Worktrees・Routines・Dynamic Workflows など 6 つの大型新機能が追加された
  • Claude Managed Agents によりエージェントの本番投入が劇的に簡単になった
  • 楽天・みずほ FG・NRI など日本企業の実戦的な事例が惜しみなく共有された -「AI の進化は指数関数、ビジネス活用は直線」という言葉が印象に残った

1. イベント概要

項目 内容
正式名称 Code with Claude Tokyo 2026
日程 Day 1: 2026/6/10(本編)、Day 2 Extended: 2026/6/11
会場 フェアモント東京(港区)
主催 Anthropic
規模 メインフロア満席、Breakout Room でも視聴者多数
時間 朝 8 時〜夜 8 時(約 12 時間)

朝 8 時から開場し、夜 8 時まで続く約 12 時間のマラソンイベントです。Day 2 Extended は現地参加が抽選制となっており、「本編(Day 1)は抽選に落ちた」という声も多く聞かれるほどの競争率でした。

ランチには今半のすき焼き弁当が振る舞われるなど、Anthropic のホスピタリティは徹底していました。

Code with Claude Tokyo 2026 の 2 日間セッション構成と主要登壇者

2. 注目発表①:新モデル Claude Fable 5 と Opus 4.8

注記: 本記事のモデル名(Claude Fable 5 / Claude Opus 4.8)はイベント当日の発表に基づいています。公式発表ページは Anthropic News でご確認ください。

今回の最大のニュースのひとつが、2 つの新モデルの発表です。

2.1 Claude Fable 5

SWE-bench Pro スコア 80.0% を達成したコーディング特化モデルです。SWE-bench Pro は実際のオープンソースリポジトリの Issue を自律的に解決するベンチマークであり、80% という数値はソフトウェアエンジニアリングタスクの大部分を AI が代替できるレベルに近づいていることを示しています。

2.2 Claude Opus 4.8

SWE-bench Verified スコア 88.6% という驚異的な数値を記録した最上位モデルです。複雑な推論・長文コンテキスト・マルチステップタスクにおいて、現時点で最高クラスの性能を持つとされています。

※ SWE-bench Pro と SWE-bench Verified は評価セットが異なります。両者のスコアは直接比較できません。

これらのモデルがあってこそ、次に紹介する Claude Code の新機能群が現実のものとなっています。


3. 注目発表②:Claude Code の大型アップデート

基調講演を担当した Cat Wu(Head of Product for Claude Code)は、6 つの新機能を一気に発表しました。

Claude Code の 6 つの新機能と同時発表された新モデルの概要

3.1 Auto Mode

リスクレベルを自動判定し、安全なコマンドであれば承認なしで自動実行します。これにより、ファイル読み込み・テスト実行・ドキュメント生成といった低リスクなタスクは人間の介入なしに完了できます。

3.2 Worktrees

Git の Worktree 機能と統合し、複数フィーチャーブランチを並列開発できます。「フィーチャー A をビルドしながら、フィーチャー B のテストを走らせる」という使い方が標準になります。

3.3 Routines

Cron・Webhook をトリガーとした定期タスクの自動実行機能です。「毎朝 9 時にコードレビューサマリーを生成する」「PR がマージされたら自動でドキュメントを更新する」といったユースケースに対応します。

3.4 Dynamic Workflows

数十〜数百のサブエージェントを動的にオーケストレーションする機能です。デモでは F1 チーム「SHINKIRO RACING」を題材に、4 エージェントが並列でテレメトリ分析・戦略立案・リスク評価・通信を同時実行する様子が披露されました。LEGORA(法律文書)、medkit+(医療トレーニング)、12 言語 × 24 エージェント同時ローカライズといったデモも圧巻でした。

3.5 Automemory

セッションをまたいでプロジェクト固有の知識を自動記憶します。「このプロジェクトのコーディング規約はこうだ」「このライブラリはこのバージョンを使う」といった情報を毎回説明する必要がなくなります。

3.6 Remote Control

モバイルデバイスから Claude Code を操作できる機能です。通勤中でもコードレビュー指示を出せるなど、開発環境の「場所」の概念を変える機能として紹介されました。


4. 注目発表③:Claude Managed Agents

Michael Cohen と Jessica Yan(ともに Anthropic)によるセッション「Claude Managed Agents で本番投入を加速する」では、エージェントを本番環境に持ち込む際の課題が整理されました。

従来の課題として挙げられたのは「サンドボックス構築」「コンテキスト管理」「リトライロジック」「可観測性の確保」の 4 点です。Claude Managed Agents はこれらを一括して提供するマネージドサービスとして位置づけられています。

今回の新機能としては以下が発表されました。

機能 概要
Dreaming エージェントが自己改善サイクルを持つ
Memory セッション横断の長期記憶
MCP Tunnels ローカル環境への安全な接続
Vault 環境変数・シークレットの安全な管理
スケジュールデプロイ デプロイタイミングの自動制御

エージェントを「作る」だけでなく「運用する」フェーズにおける課題を Anthropic が正面から解決しようとしている姿勢が伝わるセッションでした。


5. 企業事例セッションのハイライト

5.1 楽天の「AI-nization」

Yusuke Kaji(楽天)は AI による業務の自律化と従業員のエンパワーメントの両立をテーマに登壇しました。「AI を使って人を減らすのではなく、AI と人がそれぞれ最も価値を発揮できる役割分担をいかに設計するか」という問いかけは、多くの参加者の共感を集めました。

5.2 みずほ FG の「AI ネイティブな開発組織」

藤井達人・染谷謙太郎(みずほ FG)のセッションは、大企業における AI 導入の現実を包み隠さず語るものでした。「AI ネイティブな開発組織とはどういうものか」を、具体的な組織設計・プロセス変更・成果指標とともに紹介しており、金融機関での AI 活用の先進事例として際立っていました。

5.3 NRI のモデル選定手法

北村雄騎(野村総合研究所)は、業務タスク・ベンチマークを独自に設計してモデルを選定するアプローチを紹介しました。「汎用ベンチマークよりも、自社の業務に即したベンチマークで評価すべき」という主張は、実務者にとって即座に活用できる知見でした。

5.4 Canva の大規模エージェント設計

Danny Wu(Canva)は、数千万ユーザーを対象とした AI 機能の設計思想を共有しました。ユーザー体験を損なわずにエージェントを統合するための設計原則は、プロダクト開発者にとって参考になる内容でした。


6. Day 2 Extended の様子

Boris Cherny(Claude Code の生みの親)による Opening Keynote では、Claude Code が生まれた背景と、彼が思い描く「エンジニアリングの未来」が語られました。

ハイライトは Agent Battle: Mine the most diamonds in 45 minutes です。参加者には M5Stack Cardputer が実際に配布され、CMA(Claude Community Ambassadors)が Minecraft を題材にしたエージェント開発ハンズオンが行われました。「コードで世界を変える」という体験を文字通り手で感じられる、他のイベントにはない演出でした。


7. 全体を通じての感想

7.1 「指数関数 vs 直線」のギャップ

複数のセッションを通じて共通していたメッセージが「AI の進化は指数関数的だが、ビジネスへの適用は直線的だ」というものです。技術が先行し、それを組織・プロセス・人材がキャッチアップするまでのギャップをどう埋めるかが、日本企業にとって今最も重要な問いのひとつだと感じました。

7.2 エージェントは「作る」から「運用する」へ

Claude Code の新機能群と Managed Agents の発表は、エージェントの「プロトタイプを作れる」時代から「本番で安定稼働させる」時代への移行を象徴しています。Dynamic Workflows によるサブエージェント並列化、Automemory によるセッション横断記憶、Managed Agents による可観測性の確保は、いずれも「運用」に焦点を当てたものです。

7.3 Claude Community Ambassadors Japan の発足

辻順一郎氏によるセッション「ソフトウェア開発の民主化と、その先の未来」の末尾で、Claude Community Ambassadors Japan(CMA Japan) の発足と募集開始が宣言されました。グローバルコミュニティを日本でも育てようという取り組みは、Anthropic が単なるモデルベンダーにとどまらず、エコシステムを築こうとしている意志の表れだと感じます。


まとめ

Code with Claude Tokyo 2026 は、単なる技術発表イベントではありませんでした。モデルの進化・ツールの進化・企業事例・コミュニティ形成という 4 つの軸が一体となって「AI エージェント時代が本格的に始まった」と感じさせるイベントでした。

今回の発表を整理すると、次のキーワードに集約できます。

  • 自律化: Auto Mode・Routines により AI は「待機するもの」から「動き続けるもの」へ
  • 並列化: Dynamic Workflows により複数エージェントが協調してタスクを解決
  • 記憶化: Automemory・Managed Agents Memory によりコンテキストが永続化
  • 民主化: Remote Control・Cardputer 配布により開発のハードルが下がる

次回の Code with Claude がどこで開催されるかはまだ未定ですが、今回の密度を体験したからには次も参加したいと思います。YouTube アーカイブでも視聴できますので、ぜひご確認ください。

参考リンク


この記事の執筆にあたり、AI の支援を受けています。